【解説】炭火じゃないの!?うなぎの老舗がガスで焼くまさかの理由|養殖の中国産うなぎ|国産うなぎ

みなさん、うなぎは家で食べますか?
それとも、お店に食べに行きますか?
お店に食べに行くなら、やっぱり炭火で焼いているお店でしょうか?
それとも、火力にはこだわりませんか?
最近は、中国を始めとした海外産の養殖うなぎをスチームオーブン(スチコン)で加熱したうなぎを提供しているお店も増えています。
結論からいうと「焼く」ということであれば、遠赤外線がガスの4倍もあり、燃焼時に水分が発生しないことで表面がパリッと仕上がる炭火が一番。
ですが、「うなぎの神様」といわれテレビ番組に出演している店主のお店や、うなぎの養殖発祥の地といわれる「浜松最古の老舗」、千葉の成田にある「元祖うなぎ専門店」や、東京都内の「老舗」といわれる一部のお店では、いずれもガスで鰻を焼いていました。
そこで、今回は「うなぎの焼き方」をテーマに、炭火、ガス、そして流行しているスチームコンベクションオーブンの、それぞれの違いと特徴について調べてみましたので、ぜひ最後までご覧ください。
さっそく、まずは炭火について。
これについては今から30年以上前にアニメ化されたマンガ「美味しんぼ」の「炭火の魔力」という回が、もっとも分かりやすく「神回」ともいわれています。
この記事は動画を作成し、YouTubeにて公開中です
▼チャプター
00:00 オープニング
01:18 「美味しんぼ」の「炭火の魔力」
04:11 ガスであってガスでなかった
06:47 全国18のうなぎ店を調査
10:03 水蒸気でうなぎを焼くとどうなるか?
11:58 絶滅危惧種に区分されているニホンウナギ
「美味しんぼ」の「炭火の魔力」
アニメ「美味しんぼ」の第7話「炭火の魔力」というお話。
うなぎの老舗「筏屋(いかだや)」の板前だった金三が、先代の後を継いで店を仕切っていたのですが、留学から戻ってきた若旦那が店の方針を変更。
炭火からガスに切り替えたことに反発して辞めるところから始まります。
その後、主人公の山岡とその仲間が、炭火で焼くうなぎの美味しさを守るべく、筏屋の近くに炭火で焼くうなぎ屋を開くことで対抗することに。
このお話で語られていた「炭火のメリット」は3つ
- 高温で均一な焼き上げ:炭火は赤外線を多く放射し、表面だけでなく内部まで均等に熱を通すことができ、そのため うなぎは外がカリッと香ばしく、中はふっくらと柔らかく仕上がる
- 余分な水分の排出:炭は純粋な炭素であり、燃焼しても水蒸気が発生しません。一方、ガスは水素を含むため、水蒸気が出てうなぎが水っぽくなることがある。
- 独特の香ばしい風味:うなぎの脂とタレが炭火にかかり、焦げることで独特の香ばしい香りが生まれます。この香りが食欲をそそり、うなぎの風味を一層引き立てる。
これに加えて、うなぎを焼く際にうちわを上下に叩くように扇ぐのは煙を身に絡ませつつ、煙で表面を黒ずませないようにしつつ、熱を散らして焼き具合を均等にするため、とのことでした。
本物のうなぎの美味しさは、こうした細やかな技術と炭火の特性に支えられており、合理化のためのガスでは決して再現できないものであり、山岡たちはこれを証明し、金三を筏屋へ戻そうとするのですが、結果はいかに?
私も視聴しましたが、神回といわれる理由がよく分かりました。
詳しくは、ページ下にリンクを張っておきますのでぜひ見てください。
興味深く思ったのは炭火で焼く時間について
お話だと、提供までに30分以上かかり、それが「まともな蒲焼を証明するもの」とされていました。注文を受けてから提供までが30分以上。ということは、来店してから退店するまでに1時間はかかると思いますので、一般的なランチタイムでは難しく、十分に余裕がある時しか食べに行くことは難しそうです。
一方で、留学から戻ってきた若旦那はガスによって注文を受けてから5分以内で提供するとのこと。これはこれで早過ぎるとは思いましたが、味はさておき、経営的な効率という点だけをみれば優れている、といえるかもしれません。
そんなガスをつかって焼いたうなぎですが、実際にどのような特徴やメリットがあるのでしょうか?また、冒頭でお伝えした一部の有名店や老舗はガスをつかっていますが、これについても気になりますよね?
ただ、ここでハッキリお伝えしなければならないことがあります。
ガスであってガスでなかった!
それは「美味しんぼ」で語られていたガスと、昨今のうなぎ屋で用いられているガスを熱源とした「赤外線バーナー」とは全くの別物だという点です。
先ほどの「美味しんぼ」ではガスのデメリットとして、表面のみが焼けやすく内部まで均等に火が通りにくい、水蒸気が発生して食材が水っぽくなる、独特の香ばしい風味が出にくい、と紹介されていました。
しかし近年、多くのうなぎ店が導入しているガスを熱源とした「赤外線バーナー」は、ガスによって熱せられたセラミック製の燃焼プレートから発生する赤外線によって間接的にうなぎを焼く構造であるため「美味しんぼ」で語られたようなガス火のデメリットは大幅に改善されていました。
赤外線は電磁波の一種で、その全てを目で見ることはできませんが、その一部はオレンジ色に見ることができます。この赤外線による加熱は、食材の表面だけでなく食材の内部まで均等に熱を通します。
これにより、うなぎのような厚みのある食材でも、中までしっかりと火が通り、ふっくらとした食感を保ちます。
また、赤外線は特に水に対する吸収率が高く、乾燥に最も効果を発揮します。
燃焼プレートの温度は800°C〜900°Cもの高温となり、プレートの表面には1mm程度の凹凸があるため、高い放射効率を保ちます。
この赤外線バーナーを使用することで、うなぎの表面がパリッと焼き上がり、内部はふっくらとした理想的な状態に仕上げることができるようになりました。
これは、ガス火による直接的な炎では難しかったことであり、赤外線バーナーの導入は、うなぎ屋にとって品質維持と効率化の両方を実現する重要な技術革新といえるものであったことが分かりました。
このような背景から、近年では多くのうなぎ屋が赤外線バーナーを採用し、従来の炭火に準じた効果が期待される新しい調理方法として普及しているわけです。
とはいえ「焼く」という点において炭火には叶わない、という事実は否めません。そこで今度は「炭火」と「赤外線バーナー」と、お店の「席数」との関係について、ネット上で判明したお店の情報をもとに考えてみました。
調べてみて分かったことは、その店の席数が大きく影響している点でした。
なお昔のガスとは異なることをご理解いただけたと思いますので、ここからは分かりやすく「赤外線バーナー」を「ガス」と表現しますが、ご了承ください。
全国18のうなぎ店を調査
ありがたいことにYouTubeで厨房の内部まで撮影している動画チャンネルがいくつかありましたので、ここから炭火か?ガスか?について18店を調べました。
No | 都道府県 | 店名 | 席数 | 火力 |
---|---|---|---|---|
1 | 東京都 | うなぎ時任 | 8 | 炭 |
2 | 東京都 | 川勢(荻窪) | 24 | 炭 |
3 | 東京都 | 八つ目や にしむら 目黒店 | 24 | 炭 |
4 | 東京都 | 入谷鬼子母神前のだや | 37 | 炭 |
5 | 東京都 | 大塚 うなぎ宮川 | 70 | 炭 |
6 | 東京都 | 野田岩 | 75 | 炭 |
7 | 千葉県 | うなせん | 30 | ガス |
8 | 千葉県 | 駿河屋 | 80 | 炭 |
9 | 千葉県 | 川豊本店 | 160 | ガス |
10 | 埼玉県 | うなぎ 彦星 | 35 | ガス |
11 | 静岡県 | 炭焼き鰻 瞬 | 12 | 炭 |
12 | 愛知県 | 濱松うなぎ中川屋 | 70 | ガス |
13 | 愛知県 | うなぎ田代 | 16 | 炭 |
14 | 愛知県 | イチビキ | 38 | 炭 |
15 | 京都府 | 逢坂山かねよ | 98 | ガス |
16 | 京都府 | 京極かねよ | 34 | 炭 |
17 | 福岡県 | うなぎのぼり よしゐ | 20 | ガス |
18 | 福岡県 | 田舎庵 | 80 | ガス |
あくまでYouTubeに出ていたお店に限りますが、炭火とガスとの割合はおよそ「6:4」。私が調べた限り、東京のお店は全て炭火でした。
特徴的だったのは、傾向として席数が多いほどガスを使っていて、全てではありませんが、炭火のお店の席数が比較的、少なかった点。
それぞれの席数を平均したところ、炭が「平均で38席」、ガスが「平均で70席」と約2倍の差があることが分かりました。つまり席数が多い大箱ほど、時間と量と技術が求められる炭火は難しいといえるのかもしれません。
また、今回特に興味深かったのが、千葉の成田にある「駿河屋」さんと「川豊本店」さんの2店。ともに成田山新勝寺の参道にあり、たった190mしか離れていない両店ですが、駿河屋さんは炭火で川豊本店さんはガスでした。
両店のGoogleのクチコミ点数も、さほど違いません。
ただ、「うな重」の値段については、炭の駿河屋さんが「4,015円」で、ガス(赤外線バーナー)の川豊本店さんが「2,900円」と3割ほどの差がありました。
やはり炭のほうがコストはかかるのかなと思いました。
なお、駿河屋さんで使用している炭は長州備長炭。煙が出ず雑味がつかないため、外側はカラリと香ばしく、中はふっくらジューシーに、鰻の旨味をのがさず焼きあげるそうです。
一方の川豊さんは、別館、西口館、成田空港店と店舗を広げ、事業を拡大させているようですが、これも炭にこだわらないゆえなのかもしれません。
それぞれ商品面、価格面、経営面にわたって一長一短があるということで理解することができました。
なお、これについて別の動画にあったこちらのコメントが非常に深いなと感じましたので、ご紹介します。
炭は一度技術を失うとなかなか戻れません。
そして お店ってのは職人が育てば独立などで次を育てる必要がある。
職人はうなぎだけでなく炭の扱いも勉強しないといけないし、若い人は灼熱地獄を嫌がる。
しかも慣れないうちは失敗も多く、その失敗がそのまま損失になる。練習するだけでどれだけ経費が掛かるか。
うなぎ自体も技術を知らない人には技術面が大きな参入障壁となってます。
あとはお客さんがそもそも炭とガスの差を知らずガスがスタンダードになってること、そして上にある消防法により規模拡大時にテナントが限定されてしまうことなど。
小さいお店で店主が1人で焼きをするようなお店は炭がよくあるけど、大きくなるとガスを用いらざるを得なくなる。
実際にうなぎ屋を経営されていたかのようなリアリティあるコメントだと感じました。
そして冒頭にもお伝えした最近、急激に店舗数を増やしているうなぎチェーンが使用する「スチームコンベクションオーブン(スチコン)」でうなぎを焼く第三の方法について。
これでうなぎを焼くと、わずか数分でふわっふわの うなぎが提供できるとか。
水蒸気でうなぎを焼くとどうなるか?
そもそも、どのような原理でうなぎが焼かれるのでしょう?
スチームコンベクションオーブン(スチコン)は、蒸気と熱風を組み合わせた調理器具であり、一般的な温度範囲は100℃から250℃ですが、中には400℃の過熱水蒸気を使用するタイプもあるとか。
そのような高温のスチコンは、蒸気発生器で生成された水蒸気が、さらにヒーターによって過熱されるため、これが食材の表面を短時間で高温に加熱し、カリッと焼きあげます。
また、過熱水蒸気は熱伝導率が高いため、食材全体に均等に熱を伝えることができますので、内部もしっかりと加熱され、うなぎの中までふっくらとした食感を保つことができます。これにより、短時間の調理が実現し、同時にコストの削減が図れます。加えて調理時間が短くなるということは、お客様の滞在時間も短くなりますので、その分の収容客数が増えるメリットもありますね。
なお、このスチコンで焼くうなぎチェーンは、フランチャイズ加盟店を募集するにあたって「職人いらず」とうたっていますので、それらも含めて炭火でも、ガスでもない焼き方による、お手頃価格を実現してうなぎを提供しているようでした。

実際、こちらのうなぎ屋さんに食べに行ったことがありますが、たしかに皮面がオーブンの鉄板に置かれたような焼き方をしていました。
なお、うなぎは中国産を始めとした海外から現地加工されたものを仕入れているとのこと。一般的に身と皮が厚いといわれる中国産ですが、このスチコンを使った焼き方であれば、中がフワフワになり、身も縮まらないと思いますので「柔らかさ」と「ボリューム感」も出て、相性の良い調理法といえるかもしれませんね。
最後に「結局、ウナギは食べていいのか問題」という著書を出されている海部健三(かいふ けんぞう)さんの取材記事をご紹介させてください。
絶滅危惧種に区分されているニホンウナギ。
私たち消費者は、現状において消費を削減するべきであり、同時に環境を回復していく努力が重要ですが、消費の削減であれば即効性が期待できるとのこと。
同時に基礎的な知識を学び、うなぎに関する意識を高めることも大切だとも話されていました。
また、これからも安心してうなぎを食べるためには、河川や田んぼにたくさんのうなぎが生活していた昔の「当たり前」に戻す必要があるとのこと。
つまりは人間がうなぎに与えている悪影響を少しでも減らし、うなぎがストレスなく繁殖できる環境を整えることが求められると話されていました。
みなさまは、どう思われますか?
- Youtube「美味しんぼ 公式チャンネル【デジタルリマスター版】」
https://www.youtube.com/@Oishinbo - ウナギを食べ過ぎると絶滅するらしいけど、結局食べていいの? 専門家に聞く4つの質問
https://sdgs.yahoo.co.jp/originals/63.html - 「国産うなぎ」と「中国産うなぎ」の違いって何? 味に差はある? 鰻専門ライターが食べ比べてみた!
https://allabout.co.jp/gm/gc/499870/ - 中国産うなぎの安全性について
https://ufufu-style.com/unagi/#i-2 - ガス、炭火、薪、オーブンなどの火入れ方法を徹底比較! 特徴や使い分けも解説
https://www.inshokuten.com/kitchen/magazine/153 - スチコンとは?使い方からメリット・デメリットまで徹底解説
https://2ndlabo.com/article/298/ - スチコンとコンベクションオーブンとの違いは?
https://promo.nexyz.jp/column/190605-01 - 【諸説徹底比較】焼肉は炭火とガスどちらが美味しいのかを比較しまくってみた
https://www.yuramatayuramata.com/entry/meat_sumi_gas - 【炭火VSガス火】おいしい焼肉はどちらかロースターを徹底比較
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